江東区、清澄白河にある都内最大規模のアンティークショップ『タロス』。
ここで開催される、企画集団『音屋』のライブシリーズに書で三度参加させていただきました。
着物の帯に書いた書は、その後も風情漂う一画のディスプレイに。
ポップなアメリカ文化と昭和レトロが混在したような何とも愉快な空間に、店長さんの温かいおもてなしで大勢のファンを引き付けてやまなかった『タロス』。
移転のため、惜しまれつつも6月末に賑やかな歴史の幕を閉じました。
6月最終週の土日に、ここでパフォーマンスを重ねたアーティストさん達でラストライブ。
これまでステージを彩った私の作品も再び展示されました。
昨年の夏に行われたライブでは、煌びやかなアルファベットや襖紙にほんわりと書いた「音屋の古着屋」の書、色彩鮮やかな筆文字Tシャツなど、愉しさを筆文字で表現しようと試みました。
photo by yumeko asonuma
するとその日来場されていた地元のカスタムバイクショップのオーナー様より、『新店舗の看板を書いていただけませんか』とのご依頼が。
『タロス』が結んでくれたご縁により、春から約3ヶ月に渡り共に創り上げていきました。
「古池や 蛙飛び込む 水の音」「夏草や 兵どもが 夢の跡」などその名句は数えきれないほど書で取り組んだ松尾芭蕉も居を構えていた歴史ある町、江東区深川。
ショップは、人気のあるカフェやギャラリーが並び話題になっている築80年の注目スポット『清澄長屋』の一画で、お隣は手書きの筆文字が踊る老舗の『藤村』というモダンなロケーション。
お店の裏には東京都指定名勝である清澄庭園の深い緑が広がる素敵な場所です。
このお話をいただいて江戸の下町情緒が体感出来る「深川江戸資料館」を訪ねたり、スカイツリーが間近に見える隅田川沿いも何度も歩いて空気感を身体に沁み込ませました。
ご依頼下さったオーナーの宮川聖児さんともそのお人柄やご要望を理解するために打ち合わせを重ねました。
宮川さんは理系のご職業からは想像し難いのですが、撮影された美しい写真や慈愛に満ちたご自身の言葉を一冊の本にし、ブックカフェに置かれているような心優しい方。
看板も自ら並々ならぬ情熱を持って手掛けられ、アルミ合板の表面を削るところからベースの塗装、その上から数度の塗装を重ね時間をかけて本物の錆びが表れたような芸術的な風合いに仕上げられました。
photo by seiji miyagawa
「筆の入りは空気を切り裂くナイフのごとく、終わりは霧雨の中を長く尾を引いて消えていく赤いテールランプのイメージでお願いします。」
と、書風のご要望も文学的な表現で。
そして心のこもった看板と対話。
長い伝統を持つ街に溶け込みご要望が叶う表現になるよう数百枚書き込んで、オリジナルの文字を制作していきます。
本番は、宮川さんの熱意とラリーをすることで生まれたエネルギーで一気に書き上げました。
清澄白河に戻った看板は風雨に強いコーティングが施されてようやく完成。
アルファベットを筆文字で書くことで、清澄白河という和と洋が絶妙にマッチした街に合う雰囲気が醸し出せたのではないかと思います。
宮川さんの気持ちに寄り添い推理をし、伝えようとしたのは瞬発力とスピード感。
「イメージ通りの看板になりました!」と大変喜んでいただけました。
お客様からも「字が走っているように見える」とのお言葉をいただいたとのこと。
たくさんの人が集い永く愛されるお店でありますように、心から願っています。
下高井戸にある書道教室