しばらく作品展のお話が続いていましたので、今日は近況のご報告をしたいと思います。
筆文字ロゴを担当させていただいた、着物の半衿に重ねて衿元を彩る商品『衿ベール』がこの春発売になりました。
出典:Rie Yoshitake(@linto Kimono)Instagram
ブランド『LINTO KIMONO』
Creema(クリーマ)ハンドメイドマーケットプレイスで販売中!
ご依頼下さったのは、リリア株式会社代表の吉武利恵さん。
昨年の冬から何度も打ち合わせを重ねていました。
情熱のこもった商品にかける吉武さんの想いを表現するために、じっくり時間をかけてお話を伺い制作。
和の着物に、ベールの洋の現代性をいかにして溶け込ませるか工夫を凝らしました。
女性が手に取ってみたいと思ってもらうことがテーマなので、繊細で優美で品格のある書体を追求。
着物になじみの薄い若い方や外国人などのニーズも誘えるように、アート性と新しさを醸し出すこともポイントでした。
一つの筆文字を創り上げるには、草稿を練るところから始まり、筆を執って100~300枚は書いて徐々にイメージを膨らませ、あるいはそぎ落としながら仕上げていきます。
今回は、『衿ベール』と付帯する個別の商品名『輝』と『遊』を制作、最初にお気に召していただけたスタイリッシュな『遊』の字に合わせ、新たに『輝』を書き直すという作業も行いました。
おかげさまで大変ご満足いただき、こうして一つの商品に宿る歴史や想いを表現する大切なお仕事をさせていただいたことを本当に光栄に思います。
吉武さんとはこれからも様々なお仕事がご一緒出来そうで、このご縁をつないでくださった方への感謝も表せると信じて頑張って行きたいと思っています。
そして、夏に上野の東京都美術館で開催される『第102回書教展』の作品制作もそろそろ追い込み。
感銘を受けた武者小路実篤の言葉を、書の分野の一つである『近代詩文書』で書いています。
筆と紙は、いつもお世話になっている三鷹の『山口文林堂』さんで相談させていただきました。
こちらは山口会長。
現在は40代の息子さんが社長となられ、良質な書道用品の販売から、即日で仕上げて下さる裏打ちや本格的な額装、軸装まで卓越した技術でスピーディに対応して下さいます。
今回の筆文字ロゴのお仕事を始め、レンタル額を使用する展覧会以外の私の作品や生徒さんの作品の裏打ちや表装もほとんどこちらでお願いしています。
額のマットの色やすじ廻し(作品を引き立たせるために周囲を布や和紙で縁取ること)もお任せで素敵なコーディネートに。
文林堂さんを愛用するお客様もそうそうたる方々。
『近代詩文書』の創始者金子鴎亭先生を師として受け継ぐ国内最大の書道団体『創玄書道会』の名誉会長の大井錦亭先生もそのうちのお一人です。
先生の書の素晴らしさは言うまでもありませんが、90歳を過ぎても作品は全て中腰で書かれているというお話を伺い、更に畏敬の念を抱くばかりです。
また、現在放映中のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の題字を書かれた、岡山県生まれでフランス在住の書道家、Maaya Wakasugi(マーヤ ワカスギ)さんも長いお付き合いとのこと。
オープニングを飾る題字は山口さんの表装だそうで、静岡県浜松市にある大河ドラマ館に展示するため納品にも行かれたそうです。
今回私が出品する書教展に際しても詩の内容や作風をお話しするとすぐに、非常にしなやかな羊毛の長鋒筆と、漢字の紙には珍しい風合いの紙を出して来てくださいました。
大筆の下の淡いグレーのしぶきが美しい紙は、京都の染織家の方の手による新しい紙で、全面に胡粉(ごふん…カキ等の貝殻が原料で、古くから日本画などの白としてよく使われる)が引いてあり、しっとりした紙質でありながら表面は少しざらざらとしています。
しなやかすぎる羊毛は扱いがなかなか難しいものですが、この引っ掛かりのある筆触の紙に柔らかい筆で運筆することでなめらかにススッと進まず、美しいにじみと中に空気を含んだような潤いのあるかすれを生み出してくれます。
そして、下の写真の水滴のような滲みが味わい深い紙も胡粉を引いた20年物。
古い紙は柔らかくふくよかで墨がしっかり浸透し、作品効果を高めてくれるのです。
山口さんにはいつも勉強させていただいてありがたいばかり。
これからまだまだ練習を重ね、良い道具を最大に生かした艶やかな動きのある作品にしていけたらと思っています。
さて、次回のブログでは、新学年を迎えた書道教室の様子を綴りたいと思います。
先日の生徒募集ではたくさんのお申し込みをいただき感謝すると共に、ご希望に添えなかった方々には誠に申し訳なく思っています。
そのお話も次回に。
下高井戸にある書道教室