全日本書道教育協会主催の『第100回記念書教展』が平成27年9月18日(金)~24日(木)、上野公園内の東京都美術館で開催されました。
私は漢詩の作品を出品。
制作にあたり、書教の副理事長で師である根本伸也先生に熱意溢れるご指導をいただきました。
先生は書教でのご活躍のほか諸大学で教鞭を執られ、現在は千葉大学教育学部で高等学校芸術科書道免許取得のための講義を持って、書の伝統と文化の継承に尽力されています。
会場では流麗な美しさでとりわけ目を引いた先生の作品。
「冬籠り 春さりくれば 朝(あした)には 白露置き 夕(ゆふべ)には 霞たなびき…」
作者未詳 萬葉集より
私は二部審査員出品作品として、二尺×六尺の紙二枚に淡墨で書きました。
淡墨は自由書の制作では使うことがありましたが、展覧会に出品するのは初めて。
墨の選び方や磨り方に始まり、書いた直後から乾燥するまで刻々と変化していく墨色に非常に苦戦しました。
淡墨への挑戦を勧めて下さった根本先生からは、美しい淡墨書の画像を何枚も提示して学ばせていただいたり、「こうやって硯をくるんくるんと撫でるだけでいいんだよ。」と実際に墨を磨って見せていただいたり、本当に一から教えていただきました。
筆の種類や、墨色に合う紙の色柄も数を試し、書いて先生に見ていただいては変えての繰り返し。
こうして思うような墨色を出すのに困難を極めた作品も、展示するために裏打ち(業者によって紙のシワが伸ばされ背部に厚紙を当てること)をすることによって更に色が強く出るという未知の世界なのです。
試行錯誤で練習を重ねた作品がこちら。
「青北横北郭 白水遶東城 此地一爲別 孤蓬萬里征…」 李白 送友人より
線に深みが足りず色あいも反省する点ばかりですが、瑞々しい若苗色の紙や表装の力を借りて、涼しげな清流のようなイメージに仕上がったかなと思います。
先生からは「これからも淡墨で攻めて、こういうスタイルを確立するといい」と励ましのお言葉をいただきました。
さて、好天に恵まれたシルバーウィーク。
22日(火)の朝10時頃JR上野駅に到着したのですが、駅の公園改札口には「最後尾はこちら」というプラカードが出て、駅員さんが人の流れを整理するほど人出でした。
日本を代表する文化施設が集まり、豊かな自然や文化、歴史などの生涯学習や、動物園や遊園地などのアミューズメントで幅広い世代で楽しめる上野公園はたくさんの人々の心をひき付けるのでしょう。
人気の「モネ展」を始め各施設に向かう人々が続々と園内に吸い込まれていきます。
園内には広々としたオープンカフェが2つもあり、外国人観光客の目立つ来園者や隣接する東京藝術大学の学生さん達の憩いの場になっています。
美術館では、根本先生主宰のかな研究会でご一緒している先生方と共に、素晴らしい作品の数々を鑑賞することが出来ました。
本会顧問で皇太子妃雅子様の書のご進講役を務められた楢崎華祥先生の、古典の臨書を深く追求された味わい深い作品。
「青丹(あをに)によし 奈良の墨する 福寿草 夕牡丹 しづかに靄(もや)を 加えけり…」
佐原秋桜子 四季より
名誉会長、高木厚人先生の作品は白が効いて清浄な世界を醸し出し、透明感あふれる中にも重みのある書。
「春になる 桜の枝は なにとなく 花なけれども むつまじきかな…」 西行 山家集 花より
代表理事・理事長、福島一浩先生は、身をひねるような筆づかいで紙面から字が飛び出しそうな躍動感に満ちた作品でした。
素敵な表装は、100回目の記念すべき展覧会のために布を織るところから特注されたとのこと。
「方丈の大庇(おほびさし)より 春の蝶 碧空に 鋭声つづりて ゆく鳥よ…」
高野素十(他) 日本の詩歌より
代表理事、本橋郁子先生の何とも優雅な作品。
この美しい色調の料紙は漉いて染めるところから手掛けられたそうです。
「ぬす人に 取り残されし 窓の月」(他六句)
良寛句集より 良寛
幼児から小学生・中学生の力いっぱい筆の走った作品、高校、大学、一般の方々の研鑽を積んだ作品、全ての世代の見ごたえある作品が一堂に会し盛り上がった書教展。
多くの来場者の心を打ったのではないでしょうか。
私もバラエティに富んだ作品の数々に魅了されて、一日では見学の時間が足りない程でした。
上野精養軒で華々しく挙行された書教展記念式典の席では、「書は技(わざ)だけでなく人間のあり方全てが出るもの。美の到達点は平凡の上の豊かさにある。それを追求するには過酷なまでの緊張感がなければ堕落します。ここに集う皆さんが感じている書の魅力を一人でも多くの人に伝えられるように努力して下さい。」との激励のお言葉。
この日の感動を忘れず、気持ちを新たに書に取り組んで行きたいと思います。
下高井戸にある書道教室