2013.03.10
3月10日 春風に誘われて

六本木と銀座で開催されている書展を見学し静謐な世界に浸りました。

 

 

 

 

老舗和菓子店「虎屋」東京ミッドタウン店で開催中の企画展、とらやの筆「古郡達郎の書」。

古郡(ふるごおり)先生は、私が所属している書道協会の元理事で、虎屋の商品パッケージの菓銘を全て揮毫されています。

「夜の梅」、「おもかげ」、「新緑」など、流麗な菓銘を記憶されている方も多くいらっしゃる事でしょう。

この日は、広島から遊びに来ていた高校時代からの親友と共に訪れました。

広島県は書道が盛んで熊野筆の産地としても有名ですが、彼女の亡くなったおじいさまも書家。

友人も書道を続けていて、書に関する相談に乗ってくれるのはもちろん、たまに会うと気分は一気に学生時代に戻ります。

 

 

さて、洗練が集約されたようなミッドタウンのショップの中でもひときわ美しい虎屋のたたずまい。

その正面の壁面に展示された、48の書体で書かれた「和」の作品は圧巻でした。

 

 

 

 

姿の違うそれぞれの「和」から、強さや優しさ、誠実さ、情熱など秘めたエネルギーが放出されて身体中に伝わってくるようです。

作品の前でしばらく動けませんでした。

店内には迫力の大字作品も。

 

 

 

私も、商品名や看板などを書かせていただくことがあります。

先生の足元にも及ばないながらも一歩でも近づけるよう、託された品や言葉を体現する書を書くためにいろんな方向から学び続けたいと意欲を新たに致しました。

 

「とらやの筆」は、3月18日(月)まで。

 

そして、春の陽気の銀座の週末は歩行者天国でした。

松屋銀座店にて、現代かな書の大家で文化勲章受賞者「杉岡華邨展」が11日(月)まで開催中です。

杉岡華邨先生は生涯を通じてかな書の本流を歩まれ、2012年3月3日に99歳まであと3日という98歳で亡くなる直前まで現役作家として、強い創作意欲をもって作品を発表し続けられました。

開催に合わせて開かれた、杉岡華邨先生門下、臨池会門人13名によるかな書作品展「寧楽書展」には、前述の書道協会会長の高木厚人先生、並びに役員の先生方2名の作品も出品されています。

 

 

 

 

この日は、神田書学院で共に学んだご縁で、公私にわたり仲良くさせていただいている細井翠櫻先生と銀座で待ち合わせして楽しく見学。

翠櫻先生は、西荻窪のご自宅の教室と川崎のカルチャースクールでも指導されていて、書のことはもちろんプライベートでも親しい尊敬する先輩です。お目にかかると時間を忘れ話題が尽きません。

 

さて、 杉岡華邨展。

綿密な展示構成のもと、目を見張るばかりの多彩な表現をされている100点余りのかなの作品群。

どっぷりと魅了されながら廻った展覧会の最終地点に、ひとひらの紙片がガラスケースに守られて展示されていました。

撮影禁止だっため写真を掲載出来ませんが、変体仮名交じりで書かれた薄い筆跡の乱れた文字を目を凝らして読むと、こう書かれていました。

 

一旦辞するにあたり   誠に感謝します   

永らくお世話になりました   

有難く存じました

 

(華邨氏が和子夫人に残した感謝の言葉。昨年2月に肺炎で緊急入院する2日前、自宅で、妻には知らせず自ら鉛筆を取り、手近にあった掛け紙に書いたもの。葬儀の後に発見された。)

 

和子夫人は高校教師をしていた42歳の時にお見合いをし、後添えとして23歳も年上の杉岡先生のもとに嫁がれました。

時代のトップランナーとして、亡くなる直前まで現役を貫いた書家は昔気質、生前に妻に感謝の言葉などかけたことはなかったそうです。

亡くなるほんの3週間前に書き残したこの言葉。

「一旦辞する」とは、この世ではもう会えなくなるけれど天国でまた会いたいということでしょうか。

麗しい夫婦愛、そしてなんと美しい日本語でしょう。

 

和子夫人の返句がそっと添えられていました。

 

辞去の文字   見つつ涙や   春の星

 

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