戦後70年を迎える今夏。
ここ4年間年賀状のご依頼をいただいている㈱一凛堂代表、稲垣麻由美さんの初めてのご著書『戦地で生きる支えとなった-115通の恋文-』が出版されました。
過去の節目の年よりはるかに戦争について考えさせられる今年、是非皆さんに読んでいただきたい一冊です。
1946年。
太平洋戦争の激戦地フィリピン・ミンダナオ島から復員した夫のリュックの中にあったのは、氷砂糖と干しぶどう、そして、妻からの115通の恋文の束だけだった…。
極限状態の戦地で主人公の生きる支えとなった「115通の手紙」の原本をもとに、稲垣さんが6年の歳月を費やして綿密に取材を重ね書きあげられた渾身の作です。
美しい色彩の装丁を担当されたのは墨象家の七澤菜波先生。
濃淡のエメラルドグリーンや瑠璃色で表現されたうねるような筆づかいを見たとき、夫婦の間を隔てる太平洋の荒波を想像しました。
テレビも電話もインターネットもない時代、今日生きているかもわからない二人の壮絶な日々。
ページをめくり始めると止まらず、とめどなく込み上げる涙と共に一気に読みました。
《関連する稲垣麻由美さんのブログ》
『戦地で生きる支えとなった-115通の恋文-』が完成しました。(2015年7月23日)
「野火」映画化。・・・そして「恋文」。(2014年10月5日)
戦争とは何か、を教えてくれた「恋文」。(2014年8月13日)
去る7月9日のこと。
稲垣さんの中学校時代からの親友であるという女性からメールをいただきました。
毎年稲垣さんから届く年賀状の私の字で、ご出版のお祝いに『凛』の一文字書を書いて欲しいというありがたいご依頼でした。
7月23日の晴れのご出版日に向け、短い期間でしたが精一杯心を込めて制作させていただきました。
ご友人お二人の連名ということで電話やメールで詳しくご要望を伺い、長きに渡る温かい友情に感銘を受けつつ数パターンの書体を創作。
写真上段中央の『凛』は、中国の北魏時代の楷書風に、肉太の線で力が湧きあがるようなイメージで書きました。
下部もどっしりとして、飾らず動じず力強く人間味にあふれる感じです。
写真上右端の『凛』は、言葉通り「凛」としたイメージで、フラミンゴのような細い足でもしっかりと大地に足をつけ、長くのびる二本の横画の終筆は次第に高みへ羽ばたいていく様子を表したスタイリッシュなデザイン書。
土台となる色紙も、書の雰囲気に合い品質の良いものを6種類ご提示しました。
純粋無垢な白や、墨流しの模様の入った動きのあるもの。
爽やかな稲垣さんのイメージにピッタリな藤色や翡翠色(ひすいいろ)、お祝いにふさわしい茜色のもの、また和洋どんなお部屋にも溶け込む落ち着いた胡桃色(くるみいろ)のものもご用意しました。
そしてお二人が選ばれたのは、白の本画仙の色紙にゆったりと優しい行書。
余白の白を効かせ柔らかさの中にも上品で芯のある趣を醸しだし、良き日本の女性、母、妻の温かさを表現した作品でした。
色紙を包むたとう紙も、おめでたい金銀箔を散らした高貴な味わいのお品に。
記念すべきご出版の日、稲垣さんはお二人の心のこもった贈り物に大変感激されたとのことで、「唯一無二の素晴らしいものを稲垣さんに届けることが出来ました。稲垣さんも涙をこぼして喜んでくれこれほど嬉しいことはございませんでした。」との嬉しいお言葉をいただきました。
そして稲垣さんご本人からも、「親友が私を号泣させてくれました。最高のプレゼントをもらいました。うれしくてうれしくて!」と高揚感に満ちたメールを送って下さり感無量。
貴重な手紙を託されてから6年間全力で走り続けた稲垣さん、この夏、後世に残る大きな仕事を成し遂げられて今はただホッとされているのではと思います。
お疲れが出ませんように、そして何より、たくさんの人々の想いの詰まったこの本が一人でも多くの人に読み継がれますように願ってやみません。
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