2013.05.30
5月30日 音屋の風呂屋

 

東京都内の銭湯の数は、昭和40年代と比べると3分の1以下に減っているとか。

そんな中、世田谷は下高井戸にある情緒あふれる銭湯「月見湯」で素敵なライブイベントが開催されました。

私は、昨年2月に行われた第一回に引き続き、主催のシンガーソングライター、ハヴケイスケさんのご依頼を受け書で参加させていただきました。

 

 

 

 

 

 

題字の書の揮毫にあたっては、言葉を生きたものにするためにご依頼した方の人となりを出来る限り理解し、伝えたいテーマをしっかりと伺ってからその世界観を表現することが大切です。

打ち合わせで皆さんにじっくりとお話を伺いながら気持ちに寄り添って行き、感じたものを、書でどう創りどう伝えるのか。

彼らの音楽も繰り返し聴いて、書風を構築していきました。

 

トップバッターで出演された「円人図」(えんじんず)という7人編成のバンドからのお二人、戎谷俊太さんと君塚世和さんはボストンのバークリー音楽大学で学ばれた骨太なアーティスト。ご幼少の頃から海外生活が長い戎谷さんとのお話の中で、美しい日本語や日本の文化をいつくしむピュアな気持ちが伝わりました。

楽曲は戎谷さんの際立った個性と才気が凝縮され、新世代が創造したノスタルジックなポップスのようですが、洗練されたアーバンソウルとして心に響き高揚感が高まります。

月見湯ライブでは、戎谷さんのサックスと君塚さんのギターの確かな音色、そして戎谷さんの卓越した歌唱力で冒頭から観客の心を一つに。

 

二番手の松本佳奈さんは、ハスキーでありながら透明感のある艶やかな声質と、恵まれた天性の歌の力を合わせ持つ可憐な女性ボーカリスト。

この日歌われた、「愛しさはなお募るものかな」など日本人の琴線に響く歌詞を、抜群のピアノワークで聴かせる実力派です。

月見湯では、奥野裕介さんの繊細なギター伴奏との共演で聴く人の心を魅了しました。

日本人形のような儚げな外見と裏腹な迫力のある声量と、面白いトークもキュートな魅力。

 

そして、トリのハヴケイスケさん。

ギター一本を手に、バックパック姿で東南アジア各国や日本一周・全47都道府県の歌の旅を敢行した強者でありながら、その楽曲の世界は穏やかで優しく、日本の原風景を見ているような心地よさに引き込まれてしまいます。

北海道で生まれ育った伸びやかなお人柄が反映しているのでしょう。書風も、丸みのあるふんわりしたものを選ばれました。

この日は、ウッドベースの小谷和秀さん、ギターの平田崇さん、パーカッションの土生裕さんらによる、腕利きのバックバンドが脇を固めて、ラストステージを大いに盛り上げました。

 

 

 

それでは、書の制作過程を少しご紹介していきましょう。

皆さんの熱い深い想いを書で表現すべく、楷書、行書、隷書、デザイン書などいくつかの書体で創り、ご提案。

アーティスト名の書もそれぞれの方に合う書風をお選びいただきました。

 

 

 

 

 

ステージの背景を彩るタイトルは、ハヴさんが「こんなイメージで」と、筆ペンでサラサラッと原案を書かれました。

ご自身の筆文字の宣伝用ポップなども手掛けていらっしゃるので、筆運び軽やか、デザインが決まっていると、私の仕事は一足飛びに。

 

 

 

 

 

そして数日間、壁面計算や紙面計算なども含めた推敲を重ねてから初めて筆を執り、半紙の原本が出来あがったら、ほぼ完成に近づきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清書は、受け取ったエネルギーを注ぎこんで一気に書き上げます。

今回は、水彩画用の筆も含め文字のサイズに合わせて大小5本の筆を使用しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、月見湯ライブ。

 

 

 

 

 

素晴らしいアーティスト達のパフォーマンスを、手作りキャンドルの灯りでえもいわれぬ幻想的な空間に演出されたのは、キャンドルアーティストのトウノワさん。

キャンドルの灯りには、雰囲気だけでなく、炎のゆらぎや温かみによって身体と脳に安らぎをもたらす不思議な力があるそうです。

歌い手と聴衆が手の届く近距離にありながらも緊張感を感じずに豊かな時間を共有できたのは、キャンドルの灯りによって日本ではおなじみのいろりを囲むような、欧米においては暖炉を囲む家族の団らんのような、くつろぎと心のつながりがもたらされたからではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ終了後、「戎谷さんの『family』という曲を聴いている時、後ろの書が動き出して一緒に踊っているように見えた」という嬉しいご感想をいただきました。

 

 

『family』  written by Ebisutani Shunta

 

「ただいま」 父さんに「おかえり」   「ごはんよ」と母さんのライブは台所がステージ

家族だけの詩

 

こんにちは。あいさつは大切    イタズラ 悪いことしたゲンコツ    あたりまえのこととミュージック

ぼくにくれた family

 

出逢いこそが人生 そう、君だよ   夢と追いかけっこの途中で   手と手をつないでloving

溢れていくメモリー

 

希望を信じている人に   おとずれる奇跡があるんだよ   ささやいたドレスレディー   今、誓いのキスを

 

愛をありがとう・・・

 

 

 

 

 

『音屋の風呂屋』ライブ。

銭湯の浴室内のじんわりとした温かさの中、おとぎ話の世界に迷い込んだようなキャンドルの灯りに照らされて五感に沁み渡るようなひとときでした。

出演された方々、サポートした方々、足を運んでくださったお客様、みんながそこに魂を注ぎ、光をあて、生命を吹き込んで創り上げた至福の空間。

参加出来ましたこと、大変感謝しています。

 

 

 

 

これから様々なストーリーを紡いでいかれるアーティストの皆さんの未来が、光輝くものでありますように、心から。

 

 

 

 

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