今日、5月20日は二十四節気上で「小満」。
あまりなじみのない言葉ですが、桜の時期が終わり、ツツジ、牡丹や菖蒲、藤と続きバラが咲き始める爽やかな頃ですね。
木々も新緑から万緑へ移り変わり、生命の力が満ちる美しい季節。
久しぶりに新潟県の越後湯沢を訪れました。写真は湯沢高原からの展望です。
頬をなでる風は冷たく、遥かに望む谷川連峰にはまだ雪が残っていました。
この山深い湯沢の地を世の中に知らしめたのは、ノーベル文学賞作家川端康成の名作『雪国』。
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』という書き出しはあまりにも有名で、一瞬にして雪に降りこめられた景色が目の前に広がります。
物語の舞台となった宿『高半』には、川端康成が滞在し執筆した『かすみの間』が当時の趣もそのままに残されていました。
約八百余年尽きることなく湧き出る天然温泉のこの宿は、江戸時代は参勤交代の宿所として栄え、スキー場として有名になってからは国内外から多くの著名人も滞在されたそうです。
館内の文学資料室には、北原白秋や与謝野晶子・鉄幹夫妻を始め、ゆかりの作家の方々のたくさんの作品が展示されていました。
川端康成も人からの求めに応じてよく書を書いたということで、直筆の書が数多く残されています。
肉太で堂々とした書きぶりに、詩の言葉が書の心と一つになってずっしりとした雪の重みまで迫って来るようです。
昭和20年頃の高半旅館の全景。
下の写真は、昭和10年頃の高半旅館長生閣。右手の2階が『かすみの間』で、二人の儚い恋物語は戦前の昭和9年から3年に渡って紡がれました。
ヒロイン、駒子のモデルと云われる芸者、小高キクさん。
雪のように白い肌にきりりとした表情が印象的です。
川端康成と初めて出逢った時、キクさんは19歳。
山の中腹に位置する宿なので、豪雪の時期にふもとの村から坂道を登って来るのは厳しいことだったでしょう。
それでも、年に1~2度訪れる川端氏を待ち焦がれ、早く会いたいばかりに雪の深い崖をよじ登って部屋に行ったこともあったとか。
湯沢町歴史民俗資料館『雪国館』には、そんな彼女が当時住んでいた置屋『豊田屋』が再現されていました。
昭和32年には、池辺良と岸恵子の共演で映画化。大ヒットして文芸映画の名作に。
当時、一面の銀世界の湯沢で撮影が行われ、街全体が大変盛り上がったそうです。
私も『高半』で上映されていた『雪国』を鑑賞し、モノクロの世界で描かれる雪景色の墨絵のような美しさと、二人の人生の哀しさに深い感動を覚えました。
そして駒子を演じる岸恵子さんのなんと美しいこと。
小説の舞台となった空間で、川端康成をリアルに感じながら観たこの映画は最も心に残る作品の一つになりました。
いつかこの素晴らしい感動を出発点に、幽玄な雪国の世界を書に表現出来たらと思います。
下高井戸にある書道教室