東京に開花宣言が出てから2週間が過ぎても、寒い日が続いた恩恵か、桜は咲き続けています。
開花状況が挨拶代わりの毎日、列島の桜前線を追い、ニュースでは桜にまつわる話題が映し出され、こぞってお花見に繰り出し、カメラを構えている人も日々あちこちで見かけますね。
数多の花の中でも、日本人はとりわけ桜の花が好きなのでしょうか。
春に、卒業や入学、入社などの人生の節目があるという、お国柄もあるかもしれません。
懐かしい思い出の中に、ピカピカのランドセルを背負った姿や、学生服、セーラー服、真新しいスーツを着て笑顔で写っている写真の背景は、満開の桜。
知らず知らずのうちに、桜に対する愛情が育まれているのでしょう。
けれど、桜が日本人の心をとらえて離さないのは、やはり、一年の内のたった数日、命の限りの美しさを見せたあと、一瞬のうちに潔く散っていく姿に、「もののあはれ」を感じるからなのではと思います。
来月は、六本木のサントリー美術館にて、『「もののあはれ」と日本の美』という展覧会が開催されます。
自然の美しさを描いた絵巻や屏風など、平安時代以来の「もののあはれ」の源流をうかがわせる貴重な作品が多数展示されるとのこと。
古来から培われて来た日本人の情緒豊かな美術品を、ゆっくり鑑賞したいと思っています。
また、5月には、新しくなった歌舞伎座のこけら落とし公演にも足を運ぶ予定です。
この春は、日本の伝統文化を貫く「もののあはれ」の世界をしっかりと体感して、感性を高め書に生かせたらと願いつつ、ブログの方にも詳しくレポートを記したいと思います。
日本の文化である書も、筆をおろすその時はたった一度きり。
その線一本に賭けるために、その線一本が花開くために、日々の研鑽を重ねるのです。
美術の世界だけでなく、「もののあはれ」を尊ぶ日本人独特の感性は、日本を代表するシンガーソングライターの双璧、松任谷由実さんや桑田佳祐さんの歌の中にも基調として流れているように感じます。
一部抜粋してみたいと思います。
「DESTINY」 松任谷由実作詞
ホコリだらけの車に 指で書いた True love, my true love
本当に愛していたんだと…
「真夏の果実」 桑田佳祐作詞
砂に書いた名前消して 波はどこに帰るのか
通り過ぎ行くLove&Roll
愛をそのままに…
車のボディに指で書いた愛の言葉も、波打ち際に書いた愛する人の名も、いつか儚く消えゆく運命。
確かにあった現実が、時が移ろい、幻のように消えていく様子の比喩ですね。
一瞬の輝きを追求し、生命の儚さや無常さがもつ哀しみの美が「もののあはれ」の真髄であり、だからこそ、日本人は桜の花の盛りの短い美しさに、特別に心惹かれるのでしょう。
今週末の東京は、雨模様。
風に身を震わせながら、吹雪のように花びらを舞い散らしていく姿も、心に刻みたいと思います。
下高井戸にある書道教室