ちょうど昨年の今頃。
一足先に入会されていた優しいお孫さんに誘われて教室にお見えになった良枝さんは81歳、それから1年になります。
最初はペン字を学びたいとのご希望でした。
明治時代、書道を習うには楷書10年行書10年といわれ、現代でもまず半紙に2文字~5文字ほどの漢字を練習することから始めるのが一般的でしょう。
しかし、当教室では楷書と行書を同時進行で学習してもいいですし、他の書体でも興味があるものにはどんどん取り組んでいただいています。
楷書だと緊張して字が縮こまってしまう人でも、行書だと別人のように伸びやかに書かれることもあります。
繰り返し基本を練習することは大切ですが、言葉や文字そのものにも関心を高め、自分の心情や伝えたいことを表現するために、学ぶ書体の幅を広げていくと興味が尽きることがありません。
一般のクラスでは、ペンを持っている人、大筆で大きく腕を動かしている人、小筆でさらさらと書いている人、筆ペンで金封にかっちりと書いている人など様々。
周りの生徒さんの書に影響を受けて違う課目に取り組まれる方も数多くいらっしゃいます。
良枝さんも、ペン字の基礎からはじめ、競書誌に毎月出品しながら順調に級が上がるようになってきた頃に小筆字の実用書にも興味を持たれました。
文房四宝と呼ばれる書の用具、筆や墨や硯なども良いものを少しづつ揃えられ、教室やご自宅でも練習をよくされて今月はこんなに素敵な作品が完成。
温かみのあるゆったりとした線が安らいだ心境を感じさせる、ポカポカと暖かい春の陽だまりのような作品です。
裏打ちをして、桜の模様の料紙に貼って差し上げました。
普通の半紙に練習したものでも表装するとぐんと品格が上がります。
書いたものを生徒さんのご家族やより多くの方々に鑑賞していただけるように年に数回創作をし、大人の方は普段の作品でも良いものは裏打ちをしてお返ししたりしています。
今年の子供達の書初めは、実際に凧揚げが出来る書画用の凧に大筆で大書しました。
丈夫な手漉き和紙が竹の骨組みに貼ってあり、凧糸のついた大きな凧に子供たちは興味津々。
作品の写真がないのが残念ですが、それぞれの個性があふれた立派なアート作品に仕上がりました。
おうちで飾ってもらったところご家族にも大変喜ばれたようで、「凧もうないの?」と嬉しい意見が。
毎年何回か創作の機会を設けることで、個人的に創作にチャレンジする生徒さんも増えてきました。
私の故郷の恩師古川奠雪先生は、戦後、新しい書のジャンルである近代詩文書発展の牽引役であった金子鴎亭先生の流派を受け継がれました。
読めて感動を与える漢字仮名交じり文の斬新な作品を意欲的に創作され、私も間近で多くのことを学ばせて頂きました。
創作のように無から有を生み出すのは苦しみも伴いますが、日々の学習を糧に創作をすることの醍醐味や喜びを生徒さんにも感じてもらい書を好きになって欲しい、そんな思いがあります。
来月29日(火祝)には、世田谷の銭湯月見湯で開催されるライブ「音屋の風呂屋~春編~」に書で参加致します。
約2m×3mの大書2枚で、素晴らしいアーティストさん達のステージを彩る空間演出をさせていただく予定です。
大書は、半紙と違い紙全体を見渡すことが出来ないのでバランスが難しく一発勝負の厳しいものですが、精神を集中、躍動させて勢いよく筆をふるいたいと思います。
ゴールデンウィーク中の祝日になりますが、お近くの方、ご興味のある方は、是非癒しの空間へくつろぎにお越し下さい。
下高井戸にある書道教室