「けどさー、習字って、やっててなんか意味あんのー?」
いつものようにいたずらっぽい眼差しで問いかけて来たTくんは小学4年生。
練習熱心で上手い子です。
2月に入り春の訪れが待ち遠しいこの頃ですが、春先までは書道教室のお問い合わせが一番多くなる時期です。
年賀状で文字を書くことを再認識し、新年や新年度を迎えるに当たって意欲が高まるのではと感じます。
NHKネットクラブのアンケートで50歳以上1000人に聞いた「字に自信がありますか?」との問いに、「ない」が78%、「ある」が22%という結果。(2015年1月16日放送 NHK 「団塊スタイル」より)
字に対して、長年に渡りコンプレックスを抱えていらっしゃる方が多いことが浮かび上がっています。
今は手書きの字をほとんど披露することなく済んでしまう時代ですが、それでもお悩みが一生ついて回る事を思うと解消しておきたいですね。
また、各界で活躍している30~40代で年収1000万円以上の人100人に聞いた子供の頃の習い事の第1位は「習字」という報告もあります。(2012年10月29日号 「AERA」より)
このアンケートでは、「習い事がものになった」や、「自分の人生で何らかのプラスになった」という割合も高くなっています。
年収はさておき、ある程度の役職になれば直筆の書や色紙を依頼されたりしますから、政治家なども書道を学んでいる方が多くいらっしゃいます。
こちらは、20代会社員の生徒さんの入会申込書のお名前(下)と、1年間通われた現在の字(上)です。
日々の自宅練習はもちろん、レッスンには会社のフレックスタイムを利用されたり振り替えや土曜補講にも積極的に参加されて努力を重ね、見違えるように進歩されました。
ご本人も「自分の字でもこうやって見比べてみるとまるで別人ですね(笑)」と。
先の「AERA」のアンケート結果は、このように美しい文字を獲得するまで根気強く学ぶという姿勢が、成功を導いているということを表しているのではないでしょうか。
冒頭のTくんの問いかけにはこう答えました。
「みんなのお父さんやお母さんは何で習字を習ってほしいと思うんだろうね?字が上手くて子供にも上手くなってほしいと思う人と、苦手だから子供には上手くなってほしいと願う人と両方だと思います。けれどみんな、字が上手なのはとっても大切なことだと思っていらっしゃるんですよ」
ここで、教室が一気に賑やかに。
「うちのお母さんはすごく上手いよ。書初めも一緒に書きたいって言ってた!」
「うちのおばあちゃんは習字の先生!」
「お父さんは字が下手だから僕の方が上手いって言ってる!」
子供が自分から興味を持って習うのと、親御さんの希望で習わせていらっしゃるのは、半々ぐらいの確率でしょうか。
親御さんに勧められた子供達は「何で?」と疑問に思うのも無理はありませんね。
「字がきれい過ぎて損することは何もなくて、まず頭が良く見えるの。男の子ならかっこいいしモテるよ。女の子は優しくて美人に見えるし。良いことずくめなんだよ。」
「大人になってもずっと字が上手くなりたいと思い続けている人が多いの。子供の時にきれいな字になっていたら一生楽なんだよ。」
Tくんを始め全員の顔がパーッと輝きました。
字の上達にはお手本をよく見てゆっくりと丁寧に、そしてたくさん書くことが必要です。
Tくんは夏の「うちわ制作」で、家族旅行の行き先の「北海道」と書きました。
自主的に半紙をうちわの大きさに折って、紙面に対する字配りの感覚をつかもうと工夫しています。
そして何枚も練習を重ねて紙が山に。
書きたい文字を書いていることで感情移入されて、明るく生き生きとした線で筆を運び、最終画は伸びて伸びて勢いよく筆を振り上げました。
大人の計算された工夫ではなく、書いていくうちに生まれた自然な動きで躍動感あふれる作品に。
冬休みの「カレンダー製作」では「冬休みに沖縄に行くから沖縄って書く!」と大張り切り。
お手本を見ている時も、紙に顔を寄せて楽しそうです。
普段よりレベルアップしたお手本を書いてみたら、「えー、難しいなあ、書けるかなあ。」と首をひねっていましたが、沖縄の青い空と海が思い浮かぶような伸びやかな作品を書き上げました。
きれいな字になるという目標を達成するためには、何より続けなければなりません。
現在最年少の生徒さんは小学1年生。
まだ文字の読み書きがおぼつかない幼稚園の年長さんで入会した子供達も、字を書くことを楽しみながら着々と成長しています。
今、こうして教室にいらしている生徒さんにとって「続ける」ということは、「私と共に」ということになります。
生徒さんの将来のために、良い面はとことん褒めて個性を引き出し、基礎練習だけでなく創作などレッスンの内容も工夫を続けていくつもりです。
4月には桜上水の地元で開催される「さくらまつり」で生徒展をとのご依頼をいただきました。
今度はどんな力作が生まれるのでしょうか。楽しみです。
下高井戸にある書道教室