2026.10.30
10月30日 座☆吉祥天女『こんち午の日』と題字・挿絵で綴る八年の歩み 

東京は木枯らし1号が吹いて、この秋一番の寒さがやってきました。

お風邪で教室を休まれる方も増えています。

皆さん、寒暖差に気をつけて体調管理を万全にお過ごしくださいね。

 

さて、題字と挿絵を担当させていただいている劇団『座☆吉祥天女』さんの11月公演まであと少しとなりました。

山本周五郎作品を中心に、人情味あふれる本格時代劇を上演されている吉祥天女さん。

今年の演目は江戸のお豆腐屋さんが舞台の「こんち午(うま)の日」です。

 

 

午の日は12日に1回巡ってきます

 

題名の「こんち午の日」とは、主人公が天秤棒を担いでお豆腐を売り歩く際の掛け声。

普段は「とーふー」とだけ声を上げているものが、お店のために工夫を凝らして新しいお豆腐を作り、「今日はめでたい午の日、珍しいお豆腐がありますよ~」と呼びかけるのです。

貧しい暮らしの中でも、困難に立ち向かおうとする江戸庶民の粋で真っ直ぐな心を表現した大切な言葉。

「日」の字は、そんな特別な旗日の朝の心弾む雰囲気を表すような円形で表現しました。

お芝居では、今回も江戸らしい心あたたまる日常が描かれるのかと思いきや、波乱万丈のドラマチックな展開が待っています。

 

私は初日11月20日(金)と二日目に会場におります。

ご都合が合いましたらぜひ、秋の深川散歩も一緒に楽しみにいらしてください。

 

 

心よりお待ちしています

 

吉祥天女さんとは、2019年の『佃の渡し』公演よりお仕事をさせていただくようになって、今年で8年目となりました。

 

 

グラフィックデザインは雨千砂子さん

 

今日はこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。

『佃の渡し』は、演目が決まってほどなくして役者の皆さんと一緒に、下町情緒あふれる佃島を歩くという貴重な機会をいただきました。

 

 

実際に渡船場跡も訪ねました

 

美しい隅田川の流れ、昔ながらの路地の空気、江戸の風情を今に残す街並みと人々の暮らし。

主宰の井口貴子さんや、初めてお会いする皆さんとやや緊張しながらの街歩きでしたが、その土地に直に触れたことで作品の世界がぐっと立ち上がりました。

 

 

物語の世界がより身近なものに

 

現地で感じた胸の高鳴りを抱きつつ筆を執ったこと、今も忘れられません。

 

光栄なことに翌年もお声掛けをいただき、この年は、樋口一葉原作、久保田万太郎脚本による二本立て公演でした。

 

 

題字のほか、チラシ中の筆文字を担当

 

挿絵を描くにあたり思い浮かんだのは、若い頃に故郷・岩国の山あい、錦町で見た幻想的な蛍の光景。

 

あの里山は今も変わりないでしょうか

 

山奥の、何の明かりもない漆黒の闇に舞う無数の光に出逢った瞬間の感動は、鮮やかに心に残っています。

 

この最初の2年間、チラシはブルー系の色彩が続いたため、3年目の『おたふく物語』では雰囲気を一新してピンク系の継ぎ紙に。

 

 

「ふ」の中にもニコニコのおたふくさんが

 

ストーリーも底抜けに明るく、優しい心で助け合う姉妹のお語しでしたので、挿絵は愛らしさと親しみやすさを込めてユーモラスに描きました。

 

 

心なごむ表現を目指して

 

この頃はコロナ禍真っ只中でしたが、吉祥天女さんは稽古から本番まで細やかな対策を重ねながら、公演を一度も休止することなく続けられました。

 

2022年、第18回公演は『初蕾』。

 

 

梅は井口さんの希望で白梅に

 

この格調高い紫系の継ぎ紙に巡りあって、真っ先に思い浮かんだのは岩国の横山に佇む白壁でした。

 

 

秋の吉香公園

 

白壁の向こうにのぞく木々や季節の移ろいが、これから花開こうとする蕾の姿とも重なりました。
翌年の『むかしも今も』は、幼いころから想いを寄せ合っていた二人が紆余曲折を経てその気持ちに気づき、最後に結ばれるという恋物語。

 

 

少年の純粋な気持ちを白で表しました

 

演目が決まってお知らせいただくとすぐ、私も原作本を読み込みます。

「むかしも今も」では、主人公が子どもの頃に無邪気に遊んだ「汐留堀」の草むらの情景に、幼い日の記憶へと引き戻されました。

シロツメクサが一面に広がる、今思えば夢のような場所で遊んだ日々を思い出しながら描いた挿絵です。

 

 

四つ葉のクローバーは誰もが探しましたね

 

そして2024年は、吉祥天女さん創立20周年の記念公演でした。

20年という長い歳月を舞台に捧げてこられたことへの敬意と心からの祝意を込めて、紅白とゴールドを基調とした華やかなデザインに。

 

 

舞台では寒さの中で凛と咲く蝋梅が象徴的でした

 

深川江戸資料館のロビーで、艶やかな井口さんと記念の一枚。

 

 

挿絵は紅葉バージョンも制作しました

 

20周年という節目の年をご一緒できたことは、私にとっても忘れられない思い出です。

 

そして昨年2025年、20周年を越えて新たな一歩を踏み出された公演は『縁は異なもの』。

これまで背景に使用してきた切り継ぎ紙は比較的色調に統一感のあるものでしたが、今回はタイトルにちなみ、様々な色が溶け合うような稀少な継ぎ紙を選びました。

 

 

群青色の効果でインパクトのある紙面に

 

異なる色や模様が響き合う姿に、人と人との不思議なご縁が重なります。

また、物語の中で核となる存在だった折り鶴をモチーフに、書道の仮名料紙を使って鶴の貼り絵を制作しました。

 

2羽が寄り添う姿に幸せへの願いを込めて

 

こうして8年間を振り返ってみると、岩国の思い出が知らず知らずのうちに作品づくりの源になっていたことに気づかされます。
そして、吉祥天女さんとのありがたいご縁が、伝統的な書の世界だけでなく、作品のテーマを文字に宿す「題字」や「挿絵」といった新たな表現へと導いてくださいました。

まさに「縁は異なもの」。

これからも感謝の気持ちを忘れず、一つひとつのご縁を大切にしながら歩んでいきたいと思います。

 

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